あらすじ
翔太は、中古住宅の間取りの事で妻とバトル中で憂鬱な夜を迎えていた。頑固な妻の意見を受け入れてバトルを終わらせるべきだなと思った時、目の前の景色が一変する。それは、紗香にプロポーズする前日に見た夢の中での出来事だったのだ。その後妻となった紗香から意外な一言を聞いた翔太は驚く。
作品について
こちらも先日公開した「白いティーカップ」と同じくARUHIアワードというコンテスト応募用の作品で、「マイホーム」というテーマを選んで書いたものです。
マイホームの購入やリフォームは人生の中で大きな出費の一つ。私はマイホームを持っていないのですが、実際購入したりリフォームしたりするときには、家族の意見が食い違う物だろうなと、想像して書きました。
夢の中の夫婦バトル(約6200文字)
〔ある晩の出来事〕
僕は、この状態で明日を迎えることがとても気が重い。
明日は、間取りの最終確認をするために妻と二人で建築事務所へ行く日なのに、先月から始まった妻との間取りバトルはまだ決着がついていないからだ。あと30分もすればバトルの続きを始めなくてはならない。
妻との間取りバトルが始まったのは先月の事だ。
これまで何度か引越しはしたが、結婚以来ずっと賃貸住宅に住んできた。一人息子が小学校へ入学する前にマイホームの購入を検討したことがあったものの、僕の会社は転勤が多く、購入のタイミングを逃したまま月日は流れていった。
妻も息子も、新しい環境に慣れるのは大変だったはずなのに、新しい家に引っ越しをするたびに新鮮だねと喜んでくれた。その息子も、大学を卒業して社会人となり就職と同時に一人暮らしを始めた。親の干渉から解放され、のびのびと一人の生活を楽しんでいるようだ。
バトルの最中だと言っても、もともと僕たち夫婦の仲は悪くない。ただ、このまま年を重ねていくと、何か取り戻せない忘れ物が増えていくような気がして、家を買うことを思いついたのは、息子が一人暮らしを始めたことがきっかけだ。
それから、情報取集を始めいくつか目星をつけてから妻に中古住宅の購入を持ち掛けた。
「二人のための家を買いたいと思っている。中古でいい物件を見つけたから一緒に観に行ってくれないか?」
僕の急な提案に妻は少し面食らった表情をしたが、すぐに笑顔で承諾してくれた。
「いいわね。中古住宅を買ってリノベーションしながら夫婦の終の棲家にするって素敵」
そして、家を買うということ、物件を決めるまでは円満に過ぎていった。だが、具体的にどのようにリノベーションするかという段階になって、妻と僕の意見にずれが出てきた。それでも譲り譲られ決着してきた。
だが、リビングの間取はお互い譲れないポイントのようで、バトルになってしまい、最終確認の前日を迎えてしまったというわけだ。
息子はきっと、将来的に僕たち夫婦と同居なんてするきはさらさらないのだろう。だから、家を買うことを伝えた時もまるで他人事だった。
「今まで賃貸で狭い思いをしてきたのだから、お父さんたちの好きにしたらいいよ。」
妻と意見が衝突していることを相談しても息子にとって実家のリフォームなんて興味の対象外で私たちのバトルには関わり合いたくないのだろう。
「母さんの意見を尊重したほうが良くない?まあ、どうでもいいけど」
このような調子なので、息子を味方につける作戦は失敗だ。
「ああ、もう、憂鬱だな」つい、考えていることが言葉に出てしまう。バトル再会まであと10分程度か。
一晩で円満解決に持ち込める自信は無い。僕が譲ればいいのだろうけど、実は今考えている間取りは密かなる夢だったのだ。
全体的にどのような雰囲気にしたいのかということは、二人であらかじめ決めていた。あなたがこれまで頑張ってくれたおかげで家を持てるのだからという妻の言葉に安心して、あれこれ考えているうちに膨らんでしまった自分の夢を語りすぎたのかもしれない。