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  1. 創作ストーリー

【ショートストーリー】夢の中の夫婦バトル

〔妻にはかなわない・・・〕

バトルの原因となっているのは、一階のリビングとキッチンの広さのバランスについてだ。

僕は、プライベートギャラリーを併設したかのようなこだわりのインテリアと画面が広いテレビを置いてミニシアター風にしたいと思っている。友人が来ても一緒に楽しめる空間を創りたい。

妻は、壁に向かって料理をすると気が滅入るので、憧れのアイランドキッチンを取り入れたいと思っている。ホームパーティを開く時にも便利だし、キッチンスペースを広めに確保して高級フレンチ店風のオープンキッチンをイメージしているのだという。

家の広さは決まっている。お互いの意見をきっちり取り入れることには無理があって、どちらかが譲らなくてならないことはちゃんとわかっているのだけれど・・・。

妻が入浴後の身支度を終え、戻ってきた。前置きもなしに、バトルの続きが始まった。
「で、さっきの続きだけれど・・・。私の気持ち、理解してくれたかしら?」

僕は、あいまいな返事をして妻の顔を見つめた。すると、妻は畳みかけるように言う。

「あなたは、平日は残業で帰るのが遅いでしょ。休日も付き合いのゴルフや休日出勤で留守することも多いし、たまに家にいてもゴロゴロしているだけで、友人もほとんど呼ばないじゃない。なぜそんなに大きなテレビを置く必要があるの? 料理は毎日の事なのよ」

「君だって、義務で毎日料理をするのは大変だとよく言っているじゃないか。キッチンが新しくなったって、どうせ手を掛けた料理を作るのは最初だけだろう。普通の台所でいいじゃないか。くつろぎの空間の方が大切だと思うよ」

妻は、息子の大学入学を機に、週3日のパート勤務からフルタイムの契約社員となった。2回目の契約更新の時に正社員に昇格し、時々残業もするようになった。勤務時間が長くなるにつれ、妻が料理をすることが減っていった。平日は外食をするか、買ってきた惣菜を盛り付け直した皿で夕食を囲むことが増えていった。

「年齢の事も考えて、健康的な食生活に戻したいの」
「本当かな」と僕は頭の中でつぶやいた。

「お互いの年齢に合った身体に優しい食事を作るの。もともと料理は好きでずっと作ってきたのよ。知っているでしょ?それに、アイランド型だと一緒に料理するのに都合がいいのよ」と、妻はまくしたてる。

確かに妻は、息子が高校生を卒業するころまで毎日栄養も見た目もバランスを考えた料理を家族のために作ってくれた。帰宅がいつも遅くて食べるかどうかもわからないのに僕の分まで、きっちりと。

けれど息子が大学に進学し、アルバイトをするようになって自宅で夕飯を食べる日が減っていくにつれ、料理に興味が薄れていったのか、手を掛けられなくなっていったようだ。

ん? ちょっとまてよ。
一緒に料理をするのに都合がいいって、まさか僕を台所に立たせようとしているのか?それは勘弁してほしい。今まで料理なんかしたことないし興味もない。
僕は何が作れるかって、カップラーメンくらいしか作れないのだから。

いやいや。あっ・・・妻は自分の友人を呼んで一緒に料理を作ることを考えているのかも。まさか、頻繁に友人を呼ぶつもりなのか?僕を巻き込むために?

黙り込んで頭の中で忙しく会話している僕を冷ややかに一瞥した後、最終通告というか爆弾のような一言が飛んできた。

「とにかく、譲れない!」

妻が機嫌を損ねたまま立ち上がった。妻の頑固さは筋金入りだ。きっと、このバトルに僕は勝つことが出来なくて妻の望みを100%かなえた形になってしまうのだろう。僕は「降参」という言葉をもっていかなければ寝室に入れてもらえそうにない。

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