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  1. 創作ストーリー

【ショートストーリー】夢の中の夫婦バトル

〔僕たちの選択〕

「今日もいいお天気だね。二人とも気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
「いってきま~す!」

妻の紗香は毎日お弁当を作り、僕たちを玄関で見送ってからパートの仕事に出かける。

あのプロポーズ旅行から一年後に僕たちは結婚をした。それから3年後には娘の鈴音が生まれた。一人娘の鈴音はもう中学生になった。

鈴音が4歳になった時、僕は、紗香に聞いてみたことがある。子供が小学生になる前に家を建てて家族がもっと増えればいいなという思い込みがあったからだ。

「鈴音が小学生になる前に、家を買わないか? 君の実家からそう遠くはない場所がいいよね。何かと安心だし」
「え?」
「もし下の子が出来たら、慣れた場所で落ち着いて出産する方がいいだろう」
「私は、賃貸で十分よ。確かに下の子が生まれたり、子供が学校へ行くようになったりしてから引っ越しは大変だけど、家を建ててしまったらそこから逃げられないもの」
「逃げるって・・何から?」
「ほら、近所づきあいやら地域性やら、学校に子供がなじめないとか。住んでみないとわからないことって多いでしょう。もし何かあっても、賃貸なら気楽に引っ越せるでしょ」
「そんなものかなぁ」
「そうそう。マイホームは魅力的だけれど家族の成長に合わせて住み替える方が素敵でしょ。あ、引っ越しは大変だしお金もかかるから引っ越し貧乏になってしまうかもしれないけれどね。次、どこへ行こうかとワクワクする。
私達も鈴音もどちらかというと社交的だし、一時的に辛い思いをさせることがあったとしても、きっと長い目で見ると子供にも私達にもいいと思うのよ」

結局、紗香の意向と僕の仕事の都合でマイホームを持つという話は進展することはなく、鈴音に兄妹を作ってやることも出来なかった。鈴音も兄弟がいないほうがパパとママを独り占めできてよかったなどという。本音はわからないが。

「翔太実はね、私、決めているの」
「え?」
「もしマイホームを持つなら、その時は翔太が一番望む形の間取りにしたいの」
「どうして? 女性はキッチンに拘るって聞いたけど」
「いつまでも旦那様が安心してくつろげる家がいいのよ。そこは譲れないから覚えておいてね。とにかく、鈴音がお嫁に行くまでは賃貸でいいから」

紗香は自分の気持ちを偽っているのではないか、本当はマイホームや広いキッチンが欲しいと思っているのに気を遣っているのではと心配になるが、どうやら本心から賃貸でいいと思っているようだ。

僕が趣味をとことん楽しんだり、知人との付き合いを大切にしたりして素敵なお父さんでいれば、将来お嫁に行った鈴音も実家へ帰ってくるのが楽しみになるでしょと、紗香が子供のように笑った。

ああ、彼女の笑顔を守るために何をするのか、何が大切なのかを考えることが僕の役割なのだろう。とはいえ、娘が大人になって家を出た後に建てるホームは、僕だけのためではなく、夫婦の時間を一番に考えた間取りにしたい。

夫婦二人に戻るまでの時間はたっぷりあるから、妻と話し合いを重ねていこう。紗香の頑固さを、僕は良く知っている。夢の中のバトルは平行線だった。続きは、現実の人生の中で折り合いをつけよう。

 そうだ。家はまだ買わないけれど、今から探すのも悪くない。さっそく今晩、紗香に提案してみよう。

「ねえ。紗香。今度の休みは、マイホーム探しの予行演習に出かけないか?」ってね。

(おわり)

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