●前編 あらすじ
悟は奈波との待ち合わせに早めに来て店でカクテルを頼む。奈波を待ちながら、お見合いサービスで出会い初めて会った日のことを思い出していた。その時、悟は奈波にお付き合いを申し込むが返事は「no」。あきらめきれない悟は彼女とのつながりを途切れさせたくない一心で奇妙な提案を思いつく。
・・◇◆・・
「せっかくのご縁ですから、これからお友達になってもらえませんか」
「え?・・・」
「いや、頻繁に会って・・というのではなくて。今日から一年後、お互いパートナーが見つかっていなければ食事でもしながら一年の活動をねぎらうというか」
「・・・」
「あ、ご迷惑ですよね。今の言葉は忘れてください。本当にすみませんでした」
奈波さんは、少しうつむいた後、顔を上げて僕の目を真っすぐと見つめた後、柔らかい笑顔で言った。
「そんな関係も素敵ね。うん、ありだと思う」
やった! 心の中で僕はガッツポーズをした。一年後、また奈波さんに会える。
「この関係に名前を付けるとしたら‥なんだろう」
真剣に考えようとしている僕のことをじっと見つめて奈波さんが言う。
「名前なんて、いいじゃない」
こうして僕たちの『年に一度近況報告をする お互いの応援団長』という関係が始まったというわけだ。
自分でも未練たらしいと思ったけれど、何か理由を付けてもう一度会うチャンスがほしかったのだ。
その時の僕は、心の底で、ひょっとすると時間が経てば自分に気持ちが向くかもしれないという思いがあったのかもしれないし、無かったのかもしれない。
翌日からはまた、それぞれがパートナーを探す旅をつづけた。
約束の一年が近づくと、予定のすり合わせのためにメッセージを交換するだけの関係。
一年、二年、三年・・・そして、今年、不思議な関係は二十年目になる。
この二十年の間、お互いに恋人がいるときもあれば、どちらもいない時もあった。
僕には恋人がいて奈波さんは一人だった時。
僕は一人で奈波さんには恋人がいた時。
お互い出会いはあってもなぜか、それぞれのパートナーとの関係がその先には進めなかったのだ。
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