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  1. 創作ストーリー

ショートカット

作品について

作品名:ショートカット

文字数:1600文字

創作のきっかけ:

ふと、遠い昔のことって何かのスイッチを押したように鮮明に思い出すことがあります。そのスイッチは、普段使っているパソコンのショートカットキーに似ているような・・そんなことを考えていた時に思いついた物語です。「恋バナ」という言葉は今は使わないかもしれませんが、いつの時代も若い時の話題に「恋」は欠かせないですよね。

本編はここから

「本当に久しぶり。でも、あの頃のままだね」

フリージアの香りが揺れる頃、すっかり大人になった懐かしい友達と再会した。

彼女の前で一呼吸したら、二人の日々が思い出された。
私たちの会話はいつも恋バナ中心だったね。

「ねえねえ、昨日どうだった?」
無邪気な笑顔で私に質問をしてくる彼女。

「う~ん、いまいち。ダメだわ」

気になる彼を思い切って映画に誘い、自分としては初デートの気分で迎えた昨日。自分なりに精一杯のおしゃれをしてドキドキを抱えて彼を待つ。

「お待たせ」

少し沈黙。

その間私を見つめていた彼の表情は、学校での表情と同じ。
視線の先に、誰を見ていたのだろう。

「じゃ、行こうか」と、彼。
「あ、うん。行こう」と、私。

制服姿と違う私を見て、どう?
一言、何か感想はないのかな?


可愛いとか、いつもと違う雰囲気だねとか・・言ってほしい。
音のない声で彼に突っ込みを入れる私。・・・って、彼女じゃないからそれを望むは無理ってものか。

「結局ね、告白できなかったんだ。先制攻撃受けちゃって」
「え?何?」
「好きな人いるんだって」
「相手は?」

ちゃんとは聞いていないけど、彼が好きなのは今目の前にいる私の親友、あなたなの。きっと。

「さあ。そんなの教えてくれるわけないでしょ」
「そっか。でも彼も片想い中でしょ。映画一緒に行ってくれたし、可能性あるじゃん」
「とにかく、もういいの。なんだか、冷めちゃった」

不思議と嫉妬心はわかない。だって、あなたの魅力は私が一番よく知っている。
あなたを好きにならない男子はいないと思う。
可愛い人はたくさんいるけど、あなたの可愛さは自然体で最強だから。

もう30年以上前の小さな失恋。そんなこともあったな。

高校を卒業して、大学生になった彼女と専門学校生になった私。お互い新しい世界に触れ、共通の友人は減っていき、なんとなく疎遠になって社会人になってからは連絡が途絶えた。

あれから今日までの彼女と私の人生に、何があったか、何を感じて過ごしてきたのかはお互い知らない。いつ結婚したのか、子供が生まれたのかどうか、住まいはどこで、選んだ仕事は何だったのかもわからない。

懐かしい笑顔を見つめていると、私の脳内でパソコンのショートカットを使ったように、彼女との最後の恋バナが一瞬で呼び起こされた。

「ねえ、彼どうだった?」
「いい感じ。で、そっちはどうなの?」
「ふふふ。最高。」
「本当?よかったね」

いつかまた、大人になった後の恋多き女子に戻って恋バナの続きが出来たらいいね。
それはかなわぬ希望だった。

遺影の彼女は、あの頃と同じように可愛さ満開の笑顔で微笑んでいる。

「ねえ、あれから彼とはどうなったの?」
「うん、プロポーズされた」
「おめでとう! 式はいつ頃?」
「少し先になると思う。でも、結婚式には絶対来てね!」
「もちろん!」

きっとこんな会話をしていたのだろうと思う。

合わせていた両手を膝に戻した私に、物静かでまだ十代のピュアさ残る息子さんが言う。

「母は、時々高校時代の話をしてくれました。人生で一番楽しかったと」

彼女は最後の恋バナで話題にしていた彼とは結婚をしなかった。大学を卒業してから知り合った別の男性と結婚し、息子を産んだ。

息を引き取る少し前に、彼女が息子さんに言っていたそうだ。

「あなたが息子だから親子で恋バナはできなくて残念だった。でも、イケメン男子な息子もいいものだね。ありがとう」

母となり、年を重ねてからも恋多き人生だったのだろうか。

私は・・といえば、20代のころはたくさん恋愛したし、運命の出会いらしきこともあったのに、シングルを貫いてきた。理由を聞かれても、「タイミングが合わなかっただけ」としか言いようがない。

「今日はありがとうございました。」
イケメンの息子さんに見送られて、彼女の家を後にする。

一層強くなったフリージアの香りに、また私も恋をしようという気持ちになった。いつか、別の世界で彼女と大人の恋バナの続きをしたいから。

(おわり)

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