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  1. 創作ストーリー

忘れな猫(わすれなねこ)-2

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冒険のチャンス到来

母さんが死んでしまってからは、あきちゃんは元気がない。以前と変わらず僕の事をかわいがってはくれるけれど、撫でてくれる手が以前より弱々しくなった。そしてあまり笑わなくなった。そういえば、母さんが天国へ行ってしまう少し前から朋ちゃんが遊びに来なくなった。どうしたんだろう?

あきちゃんの元気がなくなったのは、母さんが死んだことだけでなく、朋ちゃんが来なくなったことと関係があるのだろうか。朋ちゃんに会いたいな。でも、訪ねて来てくれない限り僕は朋ちゃんに会うことは出来ない。

僕は4歳なり、もう立派な大人だ。もし冒険に出かけるなら、体力の事を考えると5歳の誕生日を迎えるまでに決行しなくてはならない。でも、どうすれば外に出ることができるだろう。

なぜ、5歳の誕生日までに冒険を決行しなくてはならないのか。それは、人間と違って僕たち猫は年齢を重ねるスピードがとても速いからだ。

生まれてから1年で人間の13歳にまで成長する。1歳を過ぎたら2歳になるまでに5~6歳、それからは1年毎に3~4歳ずつ年を取る。4歳になった僕は、人間でいうと30歳を超えている。もうあきちゃんの年齢に追いついた。

冒険に出たくても、きっかけがない。もしかすると、病気になると外に出ることができるのかもしれないと、パソコンに夢中になったいるあきちゃんの横顔を見て思った。

母さんは天国へ行ってしまう前に、何度かかごに入れられて外の世界にあるお医者さんに連れていかれた。あのかごに入れてもらえれば、外に出してもらえるのではないだろうか。

「病気のふりをしてみるか」僕がそんなことを思っていると、地域猫のケンが遊びに来た。

地域猫とは、優しい人間たちに見守られながら、外で自由に暮らしている猫たちの事だ。誰かの家で飼われるているのではないのだが、毎日決まった時間に決まった場所でご飯をもらえる。

けがをしたり病気になったりしたらお医者さんに連れて行ってもらえることもあるそうだ。男の子の場合、子供の頃に身体にちょっと痛いことをされることもある。

僕もそういえば、小さい時にちょっと痛いことをされた。これは、僕のためにしてくれたことらしいけれど、その時、あきちゃんは申し訳なさそうに僕を見つめていた。

「久しぶり。少しは元気になったか。」とケンがいう。
「ありがとう。おかげさまで。あきちゃんがいるし、もう大人だから大丈夫」と僕。

「ならよかった。そうだ。いつもご飯をもらう場所があって、だいたい同じメンツがご飯を食べに来るんだ。だけど、少し前から半分くらいの仲間しか来なくなった。ミキも見かけなくなったから、ちょっと寂しくて」と、ケンは言う。

「それは寂しいね。半分になったなんて心配だね。何か大変なことが起きているのかな」
「たぶん、原因はあれが重なったのだろう・・・」

ケンはそういうと、しまったと言いうような顔をして目をそらした。

あれって何のことだろう。まあいいや、それより僕はどうすれば冒険に出られるかをケンに相談したかったんだ。

「ところで、僕、体力の事を考えると冒険に出るのは近いうちに決行するしかないと思っている。あきちゃんに心配をかけないように外に出る方法ってないかな?」

「冒険に出てしまったら、飼い主さんが心配しないわけはないだろう!」とケンに怒られる。

その時、インターホンがなった。誰かが訪ねてきたようだ。ケンは、「じゃあ、また」と言って帰ってしまった。

あきちゃんがドアを開けると見たこともない男性が入ってきた。家の中をあちこち見て、あきちゃんと話をしている。しばらくすると、別の男性が段ボール箱をいくつか持ってきて置いていった。

「もうすぐ、ここから引っ越すんだ。明日、新しいおうちを見に行こうな。」

なんと!冒険の事を真剣に考えていたら、チャンスがやってきた!!

新しい家に引っ越すということは、外に出るチャンスが何度かあるということ。明日は外の世界を見ることができるんだ。

今度の家は、今よりもずっと広くなるそうだから嬉しい。本当の冒険に出る練習が家の中で出来るかもしれないね。

引っ越しをする理由は、あきちゃんと朋ちゃんがいっしょに住むことになったからなんだって。ずっと朋ちゃんが来ないので喧嘩しちゃったのかと心配していたが、杞憂だったみたいだ。

朋ちゃんは、とても仕事が忙しくなってしまって、あきちゃんと休みが重ならなかったみたい。このままだとなかなか会えないから一緒に住もうと2人で決めた。

「明日は、朋ちゃんも一緒に新しい家を見に行くんだよ。朋ちゃんに会うのは久しぶりだから、お前、嬉しいだろ?」そんなこと言っているけど、本当はあきちゃんの方が何倍も嬉しいはずだと僕は思っている。それはあきちゃんの顔を見ればちゃんとわかる。

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