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  1. 創作ストーリー

ある日の6秒間

こんにちは。あやのはるかです。毎日の風景からふと浮かんだ妄想をちょっぴり加えた現在のショートストーリーです。

自分の力ではどうしようもないことに巻き込まれて不安な日々の中にも、すこしホッとできる瞬間や喜びに気付ける自分でありたいですね。

当たり前だった地獄からの解放

今は、2020年5月。世の中で起きている経験したことのない現実を、新しい年の始まりの時予測はできなかった・・とうか、こんな風に思っていた。

今年もきっと、いつものようにただ過ぎていくだろう。

例えば、小さなことに悩んだり喜んだり、新しい出会いがあったり、何かを始めてみたり。相変わらず、同じ会社に勤めて忙しくしている。

たまには家族や友人と美味しいものを食べに行ったり、旅行に行ったり。一人の時間も大切にする。新年に立てた目標の事も忘れ、去年と同じことを繰り返している。そう思っていた。

ところが新しい年を迎えて一ヶ月が過ぎたころ、予想もしない事が起こった。

遠く離れた国で、未知の病が流行したのだ。

その情報が伝えられた当初はその国だけの問題だと思われていたが、やがて世界に少しずつ広がっていって、世界中の問題となった。

病の流行の影響で、私の日常に大きな変化が生じた。呼吸が止まりそうなくらい窮屈だった通勤電車の様子が変わったのだ。ゆとりある空間がうまれ身動きできない状態が緩和された。

その時はまだ移動や外出が制限されてはいなかったが、時差通勤を取り入れる人が増えたため混雑する時間帯が分散された。併せてテレワークという勤務形態が一気に広まり、通勤電車に乗る人自体も減ったようだ。

私はこれまでと変わらず同じ時間帯に通勤電車に乗っている。

とはいえ、週に1~2日はテレワークが認められるようになった。おかげで、苦行ともいえる通勤の負担が減った。これまで休みの日以外は毎日繰り返されてきた通勤地獄が、過去の出来事のように感じる。

通勤イメージ

ゆとりのおかげで見つけた共通点

いつもよりずいぶん人が減ってしまった車内で、本を読むゆとりが生まれた。
混雑していた時は本を広げて集中するゆとりなどなかったのだから、少しうれしい。

座席に座れなくても、自分が楽な姿勢で周囲に気兼ねすることなく本を広げることができる。

車窓から見える見慣れた景色が流れていくスピードが速く感じられる。朝の電車に乗る人が減って、毎日ようにどこかで押されていた非常停止ボタンも、出番がないのだろう。

そんなことを思っていると、あの景色がある場所近づいてきた。

次の駅に着く2分くらい前に電車がそこを通る時、私のお気に入りの景色が広がるスポットがあるのだ。天気がよく雲が少ない日は、遠くに小さいが富士山がはっきり見えて、電車がわたる橋の下に流れる川は青く輝きとても綺麗である。

お気に入りの景色を、車窓から見ることができるのはほんの数秒間。私は読んでいた本から目を離し、顔をあげて車窓に景色が現れるのを待った。ほぼ同時に、私のそばにいた男性も読んでいた本から目を離し、私と同じように車窓から外を見た。

「ひょっとして、この男性も私と同じかな」

小さく富士山が見え、青く輝く川を電車が亙っている間の6秒間。見知らぬそばにいた男性と、景色を共有する。誰もあんな小さな富士山や川の青さには興味が無いと思っていたので、なんだか嬉しかった。

富士山が消えると、男性はさっき読んでいた本を開き、読書の時間に戻った。それを見届けて、私も読書の時間へ戻ったのだった。男性はさっきより、ほんの少し頬が緩んでいるように見えた。

あとがき

ありがたいことに、まだ自分や家族が病に倒れていない現在は、不安やストレスが大きく増えたことを加味しても、今の状況はそんなに悪くはない。

いつ自分が感染してしまうかわからない恐怖や不安はもちろんある。仕事を失う可能性が無いわけではない。

いつも当たり前に手に入ったものが店から消えたり、イベントが中止になったり、思うように外出もできない不自由さを感じるとはいえ、新しい希望を見いだせた気がするのだ。

自分の力ではどうしようもない大きなトラブルや災害に見舞われる。 そんなとき、どうすればいいのか。何を準備しておけばよいのか。未だ手探り状態である。


この流行している未知の病がまだ自分事になっていない事に感謝しながら、なるべく良い面に心と視点を向けていきたいと思う。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

彩野はるか

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