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  1. 創作ストーリー

とびっきりの恋愛コンサルティング

〔作品カテゴリー〕 ショートストーリー/2000文字以内

〔物語が浮かんだ経緯〕

本を整理していた時に、ふと浮かんだ物語。30分程度でほぼ書き上げましたが、校正に結構時間がかかりました。それでも一日で完成。書けるときはスラスラとタイピングが進みますが、ダメな時はたった1000文字の文章でも一か月以上かかることがあります。著者になんとなく恋心を抱いたことは大昔の実体験です(笑)が、ストーリー自体はすべて創作です。 よろしければどうぞ。

半年前、学生時代から勇気をもらってきた本の著者が、コンサルティングを始めると聞いて私は胸が躍った。

リビングにある私専用本棚の一番目立つ位置には、彼のベストセラーが3冊並んでいる。

今は時代遅れの有名人なのかもしれないが、直接会えることは奇跡で、夢のまた夢だと思っていた。何かのきっかけで、いつか本当に会えるといいな。それが叶うチャンスがとうとうやってきたのだ。

彼のコンサルティングを受ける決心がつくまで約3ヵ月間悩んだ。

コンサルティングしてほしい悩みなど何もなかったからだ。内容に決まりはないとのことなので、テーマは恋愛にした。

このチャンスを逃さないために、早速私は500円玉貯金に精を出した。

ランチの予算は500円以下。千円札で支払うとおつりに500円玉が入るから。100円の雑貨を買うのにも千円札を出す。電子マネーや、なんとかPayは使わない。

私が貯金に精を出す理由は、その人のコンサルタント料金は10万円もするからだ。社会人になって5年目で実家暮らしとはいえ、たったの30分間に10万円もつぎ込むなんて思い切った決断だと思う。

「ランチを手作りすれば節約できるじゃない」
「500円玉貯金なんて、なんだか時代遅れだね。」
「カード払いにして、後から貯金頑張れば?」
「ねえ、支払方法って現金なの?」

同僚にはそう言われたが、私は私のやり方で貯金を頑張る。

ちょこちょこと小銭を貯金箱に入れる瞬間が楽しいのだ。その楽しい瞬間を200回も味わえる。少しずつ重くなっていく貯金箱を持ち上げて目標に近づいていることを体感できることも嬉しい。

支払は、ネットバンキンかカード決済なので500円玉を使って払うわけではないんだけどね。

「そもそもさぁ、30分間のコンサルに10万円って、詐欺じゃないの?」
「心配してくれてありがとうね。大丈夫だから」

コンサル料金についてだけど、詐欺じゃない。会うだけで私にとっては10万円以上の価値があるから。体験はプライスレスだ。テレビCMで言っていたセリフみたいだけど。

貯金を始めて3ヵ月が過ぎた。満タンになれば10万円貯まっているという貯金箱を振ってみる。ずっしりと重く、これ以上入れられないしチャリンという音もしない。

「おっ、目標達成じゃない?」

貯金箱の底にあるふたを開けて中身を出し、念のために数えてみると99,500円だった。

「あららら、1枚足りないな」

小銭入れをのぞいてみると、ラッキーなことに500円玉が1枚入っていた。それを取り出して500円玉の少し低い山へ置いてちょうど10万円になった。

500円玉の山に向かって両手を合わせて拝んでみる。特に意味はない。意味があるとすれば、目標達成した自分への敬意だ。

早速申込フォームにアクセスし、ドキドキしながら必要事項を入力していく。相談より会うことが目的だから、相談内容の欄には適当に書いておくことにする。

「同僚に恋したけど、会社は社内恋愛禁止。何をどうすればいいのかわからず途方に暮れている、恋愛経験が少ない女性」という設定にして適当に作文をした。

あとは送信ボタンを押すだけだ。

このボタンをポチっと押せば、もう後には引けない。覚悟を決めて「申し込む」と書かれたオレンジ色のボタンをポチっと押した。

「さようなら、10万円。こんにちは、人生最高のチャンス!」

いよいよコンサルティングを受ける日がやってきた。ずっと会いたかった有名作家の彼、あ、今はコンサルタントとしての彼だった。

「どうぞお入りください」

部屋の中へ案内されると、奥のソファに座っていた彼が立ち上がって笑顔で私を見ている。少しドキッとしたが、平静を装い会釈をする。

彼の前のソファに座るよう促され、私はゆっくりと座った。互いに挨拶をした後、事前に送っておいた相談内容について変更はないかとの確認と受け答えを繰り返す。その後、本当に恋に悩んでいるフリをして質問をしてみる。

「私はどうすればよいのでしょうか」

「素直に気持ちを伝えてみてはいかがでしょうか」

「もし、伝えても成就しなかったら?受け止めてもらえないとか」

「その時は‥ぶん殴ってやりましょう」

「え?」

「というのは冗談で、つらい気持ちを受け入れましょう」

「まずは、受け入れるのですね」

「ええ、そうです」

「わかりました」

「少し落ち着いたら、気分転換もかねて何か新しいことを始める。気持ちの整理をしながら時間を過ごすことで、新しい恋へと向かうことができますよ」

続けて彼が私に質問をする。
「ところでお相手の方とは、職場以外の場所でも会える状況ですか?」

「はい、目の前にいるあなたなので」

「え?」

「私が恋する相手はあなたなのです。私の気持ち、受け入れてくれますか?」

「え・・・と」

「すみません。冗談です。ちょっと言ってみたかっただけ」

「びっくりさせないでくださいよ。あなたの恋が成就すること祈っていますね。それでは時間ですので。今日のところはこれでよろしいでしょうか」

「はい。ありがとうございました」

実際に会ってみると、あこがれていた彼はいたって普通のおじさんだった。

著書に載っているプロフィール写真は見つめているだけでドキドキして頬も胸も熱くなるのに、今日は最初のドキッとした感覚が消えた後は何も感じなかった。目の前の彼と視線が合えば気を失ってしまうかもしれないと思っていたことが恥ずかしい。

「さようなら、古びた恋心。こんにちは、未来の新鮮な恋!」

10万円の30分間を終えた私は、長年の恋心に終止符を打ち、現実の恋に向かうためにまっすぐと歩き出した。

(おわり)

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