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  1. 創作ストーリー

白いティーカップ‐6

(前回のお話) 白いティーカップ‐5

退職願を書いた日から3カ月後。私は、数社面接を受けたうちの1社に採用された。前職よりもかなり小さな会社の課長補佐として。

今日から新しい会社で働く。初出勤のこのドキドキした気持ちは久しぶりだ。

定時よりも30分以上も早く到着した私は、ビルの入り口に立っていた警備員さんからビジターカードを受け取りオフィスに入った。

「おはようございます」

部屋に入ると奥に座っていた私の上司となる男性が立ち上がり、迎えてくれた。上司は面接の時に左端に座っていた人だった。

「今日からお世話になる一瀬麻優(いちのせまゆ)です」
「一瀬さん、課長の田端です。これからどうぞよろしく。席は、こちらを使ってください」
「はい」

田端課長のデスクには、見たことがある白いティーカップが置かれていた。受け皿の代わりに、布製のコースターが敷かれている。

「ああ、これ?比較的高級なティーカップみたいだけれど、フリマアプリでたまたま見つけた、ソーサー付きで300円のカップだよ。妻には、『ペアカップの片割れなんて・・。なんだか縁起が悪い』って言われたよ」

私があまりにもティーカップを真剣にみつめてしまったので、田端課長はカップにまつわる事をいろいろと話してくれる。

そう、これは私がフリマアプリで出品したカップだ。隣町に住んでいる購入者の男性が私の再就職先の課長だったなんて、なという偶然だろう。

思わぬ場所で、手放した白いティーカップと再会。まさか、このようなところで。カップを見つめていると、彼が微笑んだような気足した。彼って・・カップに性別があるのかどうかはわからないけれど。

このカップは私がフリマに出品したものだということは黙っておこう。とにかく、大切に使ってくれる人の手にわたっていたことを知り麻優は嬉しかった。

新しい職場は残業がほとんど無かった。残業をしなくてもお給料も前職とあまり変わらない。既婚女性や子育て中の女性も多く、いわゆる女性が活躍できる、女性に優しい会社のようだ。時間も気持ちの余裕もできた。

男性社員も年代は様々だが、ほとんどが既婚者らしい。独身男性は新卒か第二新卒の年代の人ばかりで、アラサーの私の事などお呼びではないだろうから社内恋愛は期待できない。

結婚相手を探しに転職したわけではないけれど、つい恋愛や出会いについて考えてしまう。

前職と比べると責任は少し重くなり、仕事の内容も難しくはなったが、ここでなら自分らしさを失わずに、人生を歩いていけるかもしれない。第二ステージという大げさなものではないにしろ、私にとって新しい生活、人生の始まりだ。

「そうだ、一瀬さん。紅茶が好きなら、JI-YOUというティーショップがお勧めだよ。駅とは逆の方向だけれどきっと気に入ると思う。一度行ってみたらいいよ」

「 JI-YOU というティーショップがあるのですね。興味深いです」

会社の帰り、駅とは逆の方向にある田端課長に勧められたそのお店に早速行ってみることにした。

>続きを読む 白いティーカップ(最終回)

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