小さなお話から少し大きなお話まで オリジナルストーリーと自分史を公開しています

  1. 創作ストーリー

白いティーカップ‐3

白いティーカップ‐2

それからすぐ、3回目の給料日がやってきた。その日は土曜日だった。私は、前日の金曜日に振り込まれた給料の中から一ヶ月分の生活費を残して引き出した。両親へのプレゼントと自分へのご褒美買うためだ。

2つ隣の駅には、大型のショッピングセンターがある。食事や映画鑑賞もできるし、プレゼントを選ぶためのお店がたくさんある。長い間楽しむことを忘れていたことに気付いた私は、気晴らしも兼ねて初めてそこへ出かけることにした。

「ウインドウショッピングなんて、いつぶりだろう」

特に何も決めず、ショッピングセンター内をゆっくりと歩いていた時に、ロイヤルコペンハーゲンのショップが目に留まった。

素敵な食器やカラトリーが並んでいる。引き付けられるように店内に入ると、色柄物だけではなく、真っ白なソーサー付きのペアのティーカップが何種類か並んでいる事に気が付いた。

その中でレリーフで施されたレースの上品なペアカップがとても気になった。手に取って「素敵」と小さな声で麻優はつぶやく。まるでカップに恋をしているようにドキドキとした気持ち。経験はないが、ひとめぼれの気分ってこんな感じなのかな。

「贈り物用ですか?」
「いえ。自分用に1客だけ欲しいのですが・・・」
「大丈夫ですよ。ペアでなくシングルでもお求めになれます」

 いつか大切な人と出会い恋人になった時に、同じものを一つ買い足して一緒にお気に入りの紅茶を飲むためだ。なんてね。あれ?何でこんな発想になるんだろう。

そうだ。あの童話のおまじないだ! 社会や現実の厳しさとは無縁だった少女の頃を思い出したことに気付いた麻優は一人でくすりと笑った。

高級と言っても手が届かないほどではなかったので二客買っても良かったのだが、だるまに願いを掛けながら片目を書き入れるという感覚で素敵な人との出会えるように願を掛けのつもりだった。

ちゃんと大人になった今度こそ、素敵な恋人に出会えますように。
けれど、何年もこのティーカップが使われる機会がくることはなかった。

続きはこちら 白いティーカップ‐4

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